健康情報コラム・2

運動の三日坊主克服法を考える:スモールチェンジの勧め

竹中晃二(早稲田大学人間科学学術院教授・教育学博士)

1. 痩せるために負担感の少ないスモールギャップを作る

皆さんは、痩せるための方法についてどんなイメージをお持ちでしょうか。ダイエットすること、つまりおいしい物を食べないで我慢する、あるいはフィットネス施設に通って運動することなどでしょうか。おおざっぱに消費エネルギーを増やして、摂取エネルギーを控えるということは、痩せるための原則です。

この消費エネルギーと摂取エネルギーのギャップ(差)についてもう少し考えてみましょう。減量するために食べ物の摂取を極端に我慢する、急にきつい運動を行う。こうすれば単純に、消費エネルギーと摂取エネルギーのギャップが大きくなっていって痩せていくことはわかります。しかし、このようにがんばってビッグチェンジすることは、心に大きな負担感を伴います。つまり、始めるのに一大決心を必要とし、始めたからには歯を食いしばってがんばらねばなりません。特に、すでに太っている人では、身体が大きいためにエネルギーを必要とするので多くのエネルギーを摂取する必要があり、また動けば多くの体重を移動させるわけですからエネルギーも余計に消費されます。そのため、消費エネルギーと摂取エネルギーのギャップを生み出すために、食べたいという衝動に耐え、一方でしんどい活動を行わないといけないとする心の負担感は、通常の人よりもすでに太っている人の方が大きいことがわかります。

ある研究では、消費エネルギーを増やし、一方で摂取エネルギーを減らして1日にたった100キロカロリーという小さな差を作り出せば、1年経過すれば0.4~0.9キログラム体重が落ちていくことがわかっています。たとえ100キロカロリーでなくても小さなギャップを作り出せば、体重は今以上増加していきません。つまり、肥満解消ではなく肥満予防を念頭に置くと、消費エネルギーと摂取エネルギーのギャップはそんなに大きなものでなくてよく、小さなギャップを生み出すことに集中すべきです。まずは小さなギャップを生み出すスモールチェンジに焦点をあてて、日常生活を送ることが重要です。消費エネルギーを増やす側に経てば、例えば、プラス1.000歩歩く、通勤や買い物で階段を1つ上る、ちょっとそこまでは歩いていく、お掃除は積極的に行うなどです。逆に、摂取エネルギーを減らすには、ごはんの盛りをわずかに減らす、お肉の脂身を取り除く、炭酸飲料をお茶に代える、先に野菜を食べて少し満腹感を持つなどです。このようなスモールチェンジは、ビッグチェンジと比べて負担感も少なく、そのために挫折してしまう危険性も減っていきます。まずはできることからのスモールチェンジ、スモールギャップにチャレンジしてみませんか。

2. 行動を妨げるバリア要因を克服する

皆さんは、体力をつけたい、痩せたい、健康になりたいなど様々な理由で運動を始めたわけです。開始当初は、「さあ、がんばるぞ!」と決心していたにもかかわらず、「今日はいいかな、明日がんばろう」というように少々気力が衰えるときもあります。また、突然に予定がはいったり、天気が悪くなったりで、やろうと思っていたことができないということは誰にでもあることです。私たちは、これらの原因を、行動を妨げる『バリア要因』と呼びます。

「時間がない」、「仕事や家事が忙しい」、「体力がない」、「疲れた」、「天気が悪い」などの原因はまさに「歩く」を妨げるバリア要因です。誰にでもバリア要因は存在するのですが、順調に継続できている人とたまにできない人、また止めてしまう人では何が違うのでしょうか。それは、バリア要因に対処する方法を持っているか否かなのです。

「時間がない」人は、毎日のスケジュールをうまく管理しており、運動を行う時間帯や場所をあらかじめ決めていきます。「仕事や家事が忙しい」人は、通勤や仕事場ではできるだけエレベータやエスカレータを使わずに階段を利用する、家事や買い物に費やす時間に「歩く」を取り入れるように工夫を行っています。「体力がない」と思う人は、最初から飛ばしすぎないで日常生活の中の些細な事柄に「動く」を組み合わせるようにしています。仕事や家事で「疲れた」人は、気分転換、ストレス解消、元気アップのために簡単な散歩を行うというように考え方を変えて実施します。「天気が悪い」と外出できないならば、自宅で簡単な筋トレをしたり、ショッピングモール、スーパーマーケットで歩く量を増やすなどです。あらかじめ対処法を用意して、バリア要因に打ち勝つようにしてください。

3. 「いつ」、「どこで」、「何を」、「どの程度」の4要素を決める

がむしゃらに運動を行おうとしても、どっこい継続していくことは難しいものです。まずは、最低限行える、つまり確実に行える活動を決めておきましょう。

その行動の基準として、「いつ」、「どこで」、「何を」、「どの程度」の4要素を決めていくとイメージがわきます。

いつ:

時間帯や頻度をあらかじめ固定して決めておくことです。朝の通勤時、帰宅したすぐ後、お昼休み、夕飯のためのお買い物時、夕食後など、確実に実施できる時間帯を決めておきましょう。

どこで:

場所の決定です。フィットネス施設だけでなく、例えばウオーキングならば、○○駅の階段、近所の決まったコース、職場で移動する決まった場所、お昼休みにできる散歩コース、犬の散歩コース、買い物コース等です。

何を:

フィットネス施設の利用や運動教室に通うという受動的な計画だけでなく、階段利用や大股歩行、速歩にその場あしふみ、電車の中で座らないと決めておくことだってできます。

どの程度:

時間、スピード、頻度などからだを動かす程度のことです。最初は無理しないで、慣れてきたら徐々に程度のレベルを上げていきましょう。

バックナンバー

  1. 運動の三日坊主克服法を考える(竹中晃二)
  2. 運動の三日坊主克服法を考える:スモールチェンジの勧め(竹中晃二)
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著者・竹中晃二 プロフィール

1952年大阪生まれ。早稲田大学教育学部卒。ボストン大学大学院博士課程修了。教育学博士(Ed.D.)。現在、早稲田大学人間科学学術院(大学院人間科学研究科・人間科学部健康福祉科学科)教授。日本ストレスマネジメント学会常任理事、日本健康心理学会理事・編集委員、日本体育協会スポーツ医・科学専門委員会委員。専門は健康心理学、身体行動科学、行動変容、ストレスマネジメント、運動心理学。
近著に『ストレスマネジメント―「これまで」と「これから」―』(ゆまに書房)、『身体活動の増強および運動継続のための行動変容マニュアル』(ブックハウスHD)、『身体活動の健康心理学:決定因・安寧・介入』(大修館書店)など多数。
自身のストレスマネジメントとしてダラダラペースのジョギング、料理を作りながら飲むビール、夕食時の冷えた白ワインをこよなく愛す。